実務者研修を受けに来てくださっている生徒さんたちの学ぼうとする姿勢やリアクションペーパー(その日の学びや感想を書いてもらうアンケートのようなもの)からは、良い介護をしたいという気持ちが伝わってきます。ただ単にお金を稼ぐための仕事ではなく、利用者さんに対してこういう介護をしたいという想いが確実にあるのです。にもかかわらず、実際に現場で仕事をしてみると、様々なしがらみやルールに縛られて、思ったような介護ができないという忸怩たる気持ちで一杯なよう。これだけ介護に対する熱い気持ちを持っている人たちが実はたくさんいるのに、現場では皆、縮こまって仕事をせざるをえないのはもったいないと思うのです。彼ら彼女たちの想いや力を存分に生かすことができれば、介護の現場はもっと明るく素敵なものになるはずです。
なぜ介護の現場において、こうあるべきという理想の介護ができないのでしょうか。それは時間の問題であったり、人材不足の問題であったり、様々な原因が挙げられるでしょう。ベテラン職員や役職が上の力を持っている人たちが、これまでのやり方を変えたくないので、新しい提案を取り入れようとしないといった新旧対立の問題もあるかもしれません。介護の技術や知識、考え方は10年前とは大きく変わっているのですが、現場レベルでは遅々として変わることがないのは人のマインドは変わりにくいから。そのような問題に輪をかけるのは、組織の問題だと思います。組織が大きくなればなるほど、均一化する力が働きますので、どうしても理想からはかけ離れてしまうのです。
極端な例を挙げるとすれば、一緒に働く人が3人しかいないとすると、それぞれがこういう介護をしたいという理想の介護を提供しつつ、その中で足りない部分を互いに補い合うことができるはずです。私たち一人ひとりは完全ではなく、強みもあれば弱みもあり、正しいこともあれば間違っていることもある凸凹な存在です。人数が少なければ、その凸凹をパズルのピースのように組み合わせながら、何となく形をつくることができます。ところが、30人が一緒に働くとすると、互いの凸凹を組み合わせるのが難しくなります。そこで何が起こるかというと、統一という名の均一化です。凸凹の部分を切り取って、皆同じ形にすることで(本来の形よりも小さくなりますが)、誰がやっても同じ介護を提供できるようにしたくなるのです。
同じようなことは、介護・福祉教育の世界にもあります。私がかつて大手の介護スクールで働いていたとき、ある先生が「こういうことを授業でやってみたい」と提案があっても、「他の教室で同じことができないのでダメです」とお断りせざるを得ませんでした。それが素晴らしい提案であっても、全ての教室で全ての先生ができなければ学校として提供できないということです。教室をいくつも抱える大手スクールとして、その考えには一理あるのですが、そうして生まれるのはマニュアルであり、誰にでもできるクオリティの教育の提供です。そして、こうしたいという先生方の想いは次第に失われていきます。均一化、マニュアル化をしようとすると、どうしてもレベルや熱量を下げざるを得ないのです。
もし理想的な介護を提供したいならば、多少のバラバラは受け入れて均一なものを提供することをあきらめる、もしくは有志が独立して小さい集団で提供するかのいずれかです。前者はなかなか難しいと思いますので、目指すべきは後者ではないでしょうか。想いのある介護者は自分(たち)の手で介護を提供すれば良いのです。簡単ではないかもしれませんが、そうした小さな集団がたくさんできて、地域の介護を支えていくのが理想です。大きな施設(組織)をドンとつくるのではなく、理想的な介護を追い求める小さな介護集団をたくさん生み出すことが、介護業界の未来にとっては大きなプラスになるはずです。
湘南ケアカレッジも町田にしかない小さい学校であるメリットを生かして、こうしたいという先生方の想いを生かしつつ、この先も理想を追い求めていきたいと思います。