まずは間違いを認めることから

卒業生さんがチョコを持って教室に来てくれました。およそ7年前に介護職員初任者研修を受講し、2年前に実務者研修まで修了した彼女は、今年いよいよ介護福祉士の試験に挑戦するとのことで、勉強のやり方を教えてもらいたいと来てくださったのです。実は彼女の息子さんたち2人もケアカレで介護を学んでくれました。今は別の仕事をしたり、学校に通ったりしているようですが、私も彼らのことは知っていて、いわば家族ぐるみのお付き合いということです。介護福祉士筆記試験の勉強法といっても、テキストと問題集を使ってまんべんなく勉強し、間違った問題は何度も繰り返し、それが終わったら過去問を解いてみる。ごくごく一般的な試験に対する勉強法をお伝えしました。

ちょうどお昼どきに来てくださったので、ランチにお誘いしました。「辛いものは好きです」とおっしゃるので、ケアカレの近くにある、社食ともなっているネパール料理屋に安心してお連れしました。ネパールの家庭料理であるダルバートを食べながら、息子さんたちの話や今の介護のお仕事など、いろいろな話題について話ました。その中でも中国についての話は私にとって面白かったので、ここで共有させてもらいたいと思います。

 

彼女は栄養士の仕事をしていて、中国に進出している日系企業における栄養指導をオンラインで行っています。健康診断の時期になると、さまざまな検査にもとづいてレポートを書いたり、運動指導などを含めた栄養指導をするそうです。忙しい時期とそうではない時期の差が激しく、忙しい時期は大変ですが、今の介護の仕事をやりながら上手く両立できているとのこと。なぜ中国かというと、彼女は以前、中国で暮らしていたことがあり、中国語を話すことができますし、向こうの日系企業とのコネクションがあるからです。中国市場に向けてサプリメントを販売する事業をしていたこともあり(現在は海外からの販売は禁止されているそうです)、中国に明るい、つまり中国や中国人について良く知っています。

 

日本と中国で仕事をする上で大きく違うのは、日本は最初からきちんとした形で始めようとするのに対し、中国はまずはやってみて、ダメなところがあれば修正していくというスタイルだそうです。彼女が栄養指導の仕事を引き受けるにあたって、いろいろと考えた上で「このような形でどうでしょうか?」と提案したところ、「いいんじゃない。まずはやってみましょう」と返ってきて拍子抜けしたそうです。やってみないと分からないことも多いので、彼女はそれを聞いて肩の荷が下りたとおっしゃっていました。

 

私はふと、中国の人って、絶対に自分の誤りを認めないんじゃなかったっけ?と疑問に思いました。中国の人は非を認めたら自分の責任になるから絶対に謝らないと、どこかで聞いたことがあるからです。自分の間違いや誤りを認められないとすれば、まずはやってみて、ダメなところがあれば改善していくというスタイルは難しいはずです。彼女に聞いてみると、中国の人は人前で非難されたり、間違いを指摘されたりすることは嫌がるけれど、個人的に話すと分かってくれるし、むしろ間違いや誤りを知っているのになぜ教えてくれないのかと言うそうです。あなたの思っていることを正直に伝えてもらいたい、という気持ちが強いそうです。日本人のように、相手の間違いや誤りを指摘すると相手が嫌な気持ちになったり、相手がそれを認めずに反発したりしてくる摩擦を恐れて、何も言わずにそのままにしてしまうことは良くないと考えているそうです。日本人が一度始めたことを、それが間違っていたとしても、元に戻したり修正したりすることが難しいのは、間違いや誤りを認められない国民性が問題なのかもしれません。私たちこそが、謝ったら死ぬ病にかかっているのですね。

 

 

私たちの社会の風通しが良くなり、健全にスムーズに運営されていくには、まずは自分の誤りや間違いを認めるところから始めなければならないのです。そのためには、何が正しくてそうではないのかを認識し、余計なプライドはひとまず横に置いておいて、「すいません」、「ごめんなさい」と言える習慣をつけることです。「ありがとう」と言えることも大切ですが、素直に謝ることができる、つまり、間違っても良いんだよという教育が大事なのではないでしょうか。正解を出せないと頭が悪いと思われるという気持ちにさせる教育のせいで、子どもたちが大人になったとき、謝ったら死ぬ病にかかっているのではないかとさえ思うのです。最初から完璧なんてありえないですし、人間の認識は半分ぐらい間違っています。やってみて間違っていたことがあればまずはそれを認めて、皆で意見を出し合って、少しずつ修正して正しい方向に向かっていけばよいのです。それは介護の現場だけではなく、どの仕事や日常生活においても同じですね。