「Coda コーダ あいのうた」

フランス映画をリメイクするのは「最強のふたり」と同じパターンで、元ネタとなった「エール」よりも「コーダあのうた」の方が圧倒的に素晴らしい作品になっています。自分以外はろう者の家族に生まれた主人公のルビーは、大好きな歌の才能を見出され、家族のもとを離れて音楽大学に進むか、とどまって家業である漁業を手伝うかの間で葛藤するストーリーは同じです。何がそんなにも違うかと聞かれても困るのですが、キャスティングもぴったりですし、劇中にはさまれるユーモアも笑えて、泣かせるところは泣かせるというメリハリの良さがありますね。何よりもルビーと兄、母と父がそれぞれ個性的に描かれていて、それゆえに家族の絆が伝わってくるようです。音楽大学の試験にて、家族が聴いている(見ている)前でルビーが歌う、「青春の光と影」(ジョニ・ミッチェル)歌詞には深い意味が込められていました。

しなやかに流れる天使の髪

ふんわり浮かぶアイスクリームの城

どこまでも続く羽毛に包まれた谷

私はそんなふうに雲を見ていた

 

でも雲は太陽の輝きをさえぎり

いたるところに雨や雪を降らせる

やりたいことがたくさんあったのに

雲によって閉ざされた

私は両側から雲を眺めてみる

上からも下からも

でもそれは私が抱いた雲の幻想

雲の本当の姿は分からない

 

お月様 6月 そして観覧車

ダンスを踊って舞い上がる気分

おとぎ話が叶う気がする

私はそんな風に愛を思い描いていた

でも愛なんてありふれたお芝居

別れるときは笑顔のままで

想いが残っていても気づかれないように

自分の本心は胸の奥に隠して

私は両側から愛を眺めてみる

与えたり受け取ったり

でもそれは私が抱いた愛の幻影

愛の本当の姿を何も知らない

 

涙と不安 それでも誇りを忘れない

愛していると大声で叫ぼう

夢と計画 喝采する群衆

私は人生をそんな風に見ていた

でも友人たちはおかしな素振り

首を横に振って私は変わったと言う

失ったものもあれば得たものもある

毎日を生きていればそんなこともあるわ

私は両側から人生を眺めてみる

勝つこともあれば負けることもある

でもそれは私が描いた人生の幻影

人生の本当の姿は分からない

 

私は両側から人生を眺めてみる

上からも下からも

でもそれは私が描いた人生の幻影

人生の本当の姿は分からない

 

雲だって愛だって、人生だって、表から見れば良く見えても、裏から見ればまた違ってみえる。上から見ても、下から見てもそれは同じ。良いこともあれば悪いこともあり、勝つこともあれば負けることもある。障害者があるからこそ家族の絆が強まることもあれば、健常者で何ひとつ苦労がないからこそバラバラになってしまう家族もある。音楽大学に行って才能を開花させることが成功で、通訳者として家業を手伝わなければならないことが負けだとも限らない。でもそう考えることすらも私たちが勝手に解釈した幻影にすぎず、誰も雲や愛や人生の本当の姿なんて分からないのです。

 

 

ルビーはわずか17年間生きてきただけですが、普通とは少し違った境遇で育ったおかげで、人生について多くを学んだのです。そうした自分の想いを歌声に乗せて、自分の大切な家族に伝えようとして、伝わった。そして家族だけではなく、審査員の心にも届き、見事に合格を果たします。音楽大学に進む決断をして旅立とうとするルビーを兄も父も母も誇りに思って送り出し、ルビーなしでも生きていくために自分たちも新しい事業に挑戦することになります。失うものがあれば得るものもある。その逆も然り。私たちの人生の本当の姿は分からないからこそ美しいのですね。ストレートなメッセージが歌声に乗って心に届く映画でした。