「THE UPSIDE 最強のふたり」

7年前に公開され、日本アカデミー賞の外国語映画賞などを受賞した「最強のふたり」のリメイク版です。オリジナル版はフランス映画でしたが、今作はアメリカのハリウッド作品となります。正直に言うと、今回のリメイク版の方が断然良かったです。オリジナル版が評判倒れの内容の薄い作品に感じられたのは今でも覚えていますが、こちらは期待を上回る出来栄えに仕上がっています。普通はオリジナル版には勝てないものですが、リメイクした甲斐がありましたね。障害者と介助者という関係ではなく、ひとりの人間同士として関わることの大切さが、ユーモアを持ってきっちりと描かれています。細部に登場するシーンや会話も機知に富んでいて、とにかく最後まで共感しながら観られる映画になっています。

 

リメイク版の方が遥かに良かった理由のひとつとして、登場人物(俳優や女優)の魅力があると思いました。特に、パラグライダーの事故で妻を亡くし、自身も四肢麻痺となった大富豪のフィリップを演じたブライアン・クランストンの熱さを身体の内に抑えた演技が素晴らしいです。一代で会社を立ち上げて大成功した行動力と勇気、明晰な頭脳を持っているにもかからず、一見すると首から下の動きを失い、何もできない人でしかない、その社会的または人間的なギャップを見事に演じています。彼が介助者に介護や福祉についてこれっぽっちも興味のないデルを選んだのも良く分かる気がします。

 

彼が嫌ったのは、障害者だからといって先回りされることや、子ども扱いされることだと思います。そういった配慮のようで本人にとっては配慮ではないことへの憤りに近い嫌悪感を、物理的なことはほとんど自分ではできない状態になって初めて、強く感じたのではないでしょうか。これは距離感の問題とも少し違って、なれなれしすぎたり、気が利かなくても良いということではなく、心理的な壁の問題です。偏見の壁と言ってもよいかもしれません。デルはフィリップに障害があると分かっていながらも、偏見を持たない稀有な人だったということです。

 

フィリップとデルの出会いのシーンが象徴的です。面接にやってきたデルは、とある事情があってフィリップに対して不採用のサインを求めます。「全身麻痺だからサインできない」とフィリップが答えると、「じゃあゆっくり書けば」とデルは返し、その返しにフィリップはクスッと笑います。このやり取りだけで、デルの心の中に偏見がないと見抜いたフィリップは採用することに決めたのです。

 

 

ほとんどの応募者はフィリップの目にかなわなかったように、偏見を持たないということはかなり難しいのです。大人になればなるほど。子どもがはっきりと物を言ってしまうのは、偏見を持たないからです。フィリップのような立場になってみると、はっきりと言われたことではなく、周りの人々の内にある偏見に深く傷つけられることに気づくのでしょう。フィリップとエドの障害者と介助者という役割から見ると、ハラハラさせられるようなやり取りはこの後も続くのですが、私たちの心配をよそに彼らは仲を深めていきます。フィリップは古くからの友だちだったらそうする(言う)ような介助を望んだのです。