板挟みになる現場の卒業生たち

先日、湘南ケアカレッジの介護職員初任者研修をきっかけとして介護の現場で仕事を始め、その後、実務者研修を経て、介護福祉士に合格したYさんとAさん(2014年4月短期クラス)が、報告を兼ねて教室に遊びに来てくれました。お祝いにランチをご馳走しますよとメールで伝えていたら、「銀行に走ってくださいね」と返信が来ました(笑)。ケアカレで学び、現場で育った卒業生さんが(先生方と同じ資格である)介護福祉士というスタートラインに立ったことは、私たちにとって誇らしいことです。そして、彼らと食事をしながら介護の現場について話していると、彼らの内面がケアカレに来てくれた3年前に比べて、大きく変わっているのが分かります。

彼らの心の中にあるのは、人を想うという感覚です。それぞれに断片は違ったとしても、根っこにある人間らしい介護をしたいという気持ちは同じです。認知症の利用者さんに同じことを繰り返されて、気が変になりそうでも、その方が悪いわけではないということをきちんと理解している。虐待の衝動に駆られるほど追い詰められる気持ちも分かるけど、それは絶対にあってはならないことだと考えている。こちらの都合で無理に食べさせたり、入浴させたりするのではなく、本人の望まないのであれば、1食ぐらい抜いても、1日ぐらいお風呂に入らなくても問題ないと思っている。「○○しましょう」ではなく、「○○しませんか?」と声掛けをする。当たり前のようなことですが当たり前ではないことを、現場できちんと考えて実行してくれているのが分かりました。

 

一方で、そのような言葉の端々から、彼らが利用者さんやその家族、そして現場の上司やリーダーとの間に板挟みになって苦い思いをしていることも伝わってきました。「そもそも利用者さんは、自分で望んで入ってきたわけではなく、望んでサービスを受けているわけでもないんだよね」という点で彼らは一致していました。「家族のため(代わり)に介護職がサービスを提供しているようなものだけど、その家族から『お母さんの具合(調子)が悪くなった』等のクレームを受けることもあって辛い。自分たちだって一生懸命にやっているし、ADLが良くなることの方が少ないのは自然だからね」と語ってくれました。さらに現場は慢性的に人手不足で、無理難題を押し付けられるのは常に職員さんたちです。

 

かつての卒業生から「初任者研修で習ったことなんて、現場で使えたためしないよ」と強い語気で言われたときは、申し訳なく悲しい気持ちで一杯でした。彼は介護職員初任者研修を受け終えてから、障害者の支援の仕事に入り、あれから3年間が経ちました。その間、彼がどのような経験や仕事をしてきたのか想像するしかありませんが、あまりにも教育の理想とはかけ離れていたのでしょう。初任者研修を受け終えた頃のキラキラと輝かせていた目は、現場の理不尽さにどんよりと曇ってしまったように映りました。それでも言葉をかけて話し、奥まで掘っていくと、彼は彼なりに少しでも良い支援をしたいと現場でもがいているのだと分かりました。

 

良い介護をしようとすればするほど、現場で板挟みになってしまうその苦しさがどう表に現れてくるかの違いこそあれ、根っこの部分は同じだと思います。やるべきことせず、相手のことを本当に考えることがなければ、板挟みになることもありません。上手くすり抜けて生きていくことも可能でしょう。それでも、ケアカレの卒業生さんたちには、先生方の想いや介護の本質がしっかりと伝わっているからこそ、苦しまなければならないのかもしれません。そこをどう乗り越えるかはそれぞれにかかっていますし、私たちには何ができるのだろうと考えさせられた1週間でした。