いろいろな場所で

いつもどおり小田急線町田駅の改札口付近を歩いていると、小田急電鉄のライトブルーの上着を着ているひとりの男性と目が合いました。私が彼の存在に気づくのと、彼が私に気づいたのは、全くと言ってよいほど同じ瞬間で、お互いに歩み寄りました。昨年7月短期クラスの卒業生Iさんでした。そのときから定年後のことを視野に入れて勉強されていましたし、先日、他のクラスメイトさんから小田急電鉄にお客さまサービス担当として再雇用されたことを聞いていましたが、まさかこの場所とタイミングでお会いできるとは思いもよりませんでした。介護職員初任者研修で学んだ卒業生さんたちが、介護の現場だけではなく、他のあらゆる仕事や場面においても、介護・福祉の知識を生かして活躍されているのを見ると嬉しく感じます。

 

先ほどのIさんは、お客さまサービス担当として、小田急電鉄を利用するあらゆる人々のことをサポートしているそうです。困っているお客さまがいれば手を差し出すのが仕事ですが、その対象者の多くはご高齢の方であったり、障害のある方であったりするそうです。先日は高齢の女性がホームで転倒し、ご自身の力では起き上がれなくなるという事件が起こりました。そのお客さまはかなり大柄で、持ち上げて立たせるのは困難という状況でした。

 

Iさんはすぐさま現場に駆け付け、ホームにいた駅員さんに「車いすを持ってきてください!」と指示を出しました。そして、「できるだけ私に体を近づけて、体重を乗せてください」と丁寧に声掛けをしながら、介護職員初任者研修で学んだボディメカニクスを使って、運び込まれた車いすにお客さまを移乗することに成功したそうです。車いすに乗ったまま、無事に安全な場所に移動してもらうことができたのです。「ケアカレで厳しく指導してもらったことで、こうした方が良いという感覚が身体に染みついて、自然と行動できました」とIさんはおっしゃっていました。後日、お客さまのご家族が駅長室に御礼に来られ、大変感謝されたそうです。

 

Iさんのように、介護職員初任者研修を修了された後、施設や事業所という介護の現場とは少し違った場所で活躍されている卒業生さんもたくさんいます。高齢社会となった今の日本では、どのような仕事をするにしても、介護や福祉が全く関係ないという場面や業種を探すのが難しくなっています。逆に言うと、私たちが生きてゆく上で、ケアカレで学んだ介護・福祉の知恵は必ず生かせるはず。

 

たとえば、家族の介護のために勉強しに来たという方はたくさんいますし、美容師やお店の店員として高齢の方に接する機会が増えてきたのでという方もいます。畑仕事にボディメカニクスが役立ったなんていう声もありました(笑)。

 

 

こうしたあらゆる場面において生かすことができるのは、ボディメカニクスという実践的な技術だけではなく、実は知識に支えられた福祉のこころだと私は思うのです。福祉のこころがあることで視野が広がり、視野が広がると気づきが生まれ、気づきが生まれると行動につながるということですね。

 

湘南ケアカレッジの介護職員初任者研修を受けたことのある卒業生さんたちにしか分からないことですが、受講前と研修を受ける前と後では全く違う世界が見えて、全く違う自分になっているということです。それこそが私たちが理念としている「世界観が変わる福祉教育を提供する」が望む姿なのです。