フィードフォワード

実務者研修5月クラスの医療的ケアの授業が終わりました。医療に関する授業は、私にとっても初めての経験だけに、先生方と何度も夜遅くまでミーティングを重ね、そのあとの居酒屋でもビールを飲みながら終電まで議論をし、ようやく完成したのが湘南ケアカレッジの医療的ケアです。同じ医療的ケアの授業であっても、他の学校とは全く違うものになっていると言い切ることができます。どこがどう違うのか挙げていくと、両手に余ってしまうぐらい。その中のひとつとして、実施した人を評価する際に、できなかったところを指摘するのではなく、良かったところを相手に伝えた上で、改善すべきところがあれば、「こうすればもっと良くなるよ」と教える“フィードフォワード”を意識してもらうことにしています。後ろ向きに評価するフィードバックに対し、前向きに評価するという意味を込めて“フィードフォワード”です。

 

湘南ケアカレッジの医療的ケアにはいくつかのテーマがあります。この授業を通し、医療的ケアに少しでも興味を持ってくれて、喀痰吸引研修などの次のステップに進もうと思う生徒さんが増えること。これは表のテーマ。それ以外の隠されたテーマのひとつとして、実務者研修を修了した生徒さんたちが良きリーダーになってもらいたいというものがあります。実務者研修を受講される生徒さんたちは、介護の仕事を始めて2~3年目、もしくはそれ以上に経験があるという方がほとんどです。ということは、現場において、後輩や新人スタッフさんを育てる役割を担っている人たちが多いということ。彼ら彼女らには、ぜひ“フィードフォワード”ができるリーダーになってほしいのです。

 

この先生方の想いは、実際に介護の現場で一緒に仕事をした経験から生まれてきたものでした。看護師として介護の現場を外から見てみたときに、ずいぶんとトップダウン的な育て方に終始してしまっている施設や事業所が多くありました。ちょっとでも失敗があると、そこばかりがクローズアップされてしまい、会議では細かいミスを全員の前で責められる。先輩も上司も部下もスタッフも管理者も、お互いのできなかったところや悪いところばかりを見る減点法式になります。そうすると、自分自身はできるだけミスをしないことばかりに頭が一杯になってしまい、利用者さんのために何かをしてあげたいという気持ちは失われてしまいます。誰も得することがない負の連鎖です。

 

 

こんなことを書くと、「そうは言っても、現場はめちゃくちゃ忙しくて、良いところから伝えている余裕なんてないんだ」という反論が出ます。たしかに、その場で悪いことをビシッと指摘しなければいけない(たとえば生命の危機に関わるような)状況はあるはずです。でもそれって常にそうではないはず。この“フィードフォワード”で大切なのは、時間があるかどうかではなく、その視点です。“フィードフォワード”するためには、相手の良いところできているところを見ようとしなければいけません。そういう視点を持って一緒に仕事をすることで、お互いの間に尊敬や信頼が生まれ、言葉が届きやすくなります。分かっていてもできないという状況もあるかもしれませんが、ぜひ習慣になるまでやり続けてもらいたいと思います。実務者研修の生徒さん同士ではしっかりとできていましたので、その心がけ次第で可能なのです。湘南ケアカレッジの実務者研修の卒業生たちが、現場に帰って、“フィードフォワード”の輪を広げていってくださることを心から願います。