看護師の先生たちと医療的ケアの授業のミーティングをしていると、「介護の現場で働く人たちってすごいよね。もう2年目ぐらいから現場の主任・リーダークラスとしての仕事をしているのだから」という話になりました。看護の世界では大体5年ぐらいで一人前になるとされており、それからポジションが上がっていき、現場を仕切ったり、後輩たちを育てたりする役割を担うようになるとのこと。グッと業務の負荷が増え、仕事が大変になるそうです。「もし2、3年目なんかで任せられていたら、自分だったら潰れていたかもしれない」という本音も飛び出しました。看護と介護という領域こそ違え、現場の人手不足のせいもあって、それを実際にやっているのが介護職であり、そう、ちょうど実務者研修を受けに来てくださっている生徒さんたちぐらいのキャリアの人たちなのです。
「そういう人たちのケアって、誰がしているんだろか?」という疑問が浮かび、「誰もしていないよね」という結論に達しました。介護の仕事に慣れてきて、楽しむ余裕が出てきたと思いきや、辞めていく人たちがいたりして、いつの間にか自分が主任・リーダーとして現場を回さなければならなくなっている。教えてもらっていた側が、気がつくと教えなければならない立場になっている(自分だってまだまだ分からないことばかりなのに)。仕事の負担だけではなく、周りの職員との人間関係やマネジメントという心配ごとも一気に降りかかってきて、両方からのプレッシャーに押しつぶされそう。でもこの仕事は好きだし、責任もあるから、辞めるに辞められず、その日その日をなんとかしてやりくりしているうちに過ぎる毎日。そんな人たちにこそ、心のケアが必要なのだと思います。
職場では誰にも話せないことが話せたり、聞きたくても聞けないことが質問できたり、言えないちょっとした愚痴をこぼせたり、相談出来たりする人や場所が必要なのだと思います。たとえ根本的な解決にならなくてもいい。自分の中でとどめておかずに、我慢して耐えるだけなのはやめて、言葉に出して聞いてもらえるだけでいい。外から新しい風を自分に送り込む。その人や場所は別に産業カウンセラーやメンタルクリニックのような大げさな形である必要はありません。むしろもっと自然な形で、そう実務者研修に通って、同じような気持ちを持って働くクラスメイトたちと出会い、真剣に学ぼうとする周りの雰囲気に刺激を受け、心がリフレッシュされ、先生方の熱意に感染して自分も情熱が蘇り、全力で褒め・認めてもらい、時には厳しく、時には励ましてもらい、改めて目の前の仕事に向き合おうと心から思える。そんな効果も実務者研修にはあるのです。
そう考えると、実技の修了試験が終わり、教室をあとにされるときに生徒さんたちが泣いていた理由が少し分かりました。共に学んできたクラスメイトたちとの別れを惜しみ、先生方と握手をして教室を去ろうとするとき、知らず知らずのうちにケアされて、癒されていた自分の心に気がつくのでしょう。ある生徒さんは、「いつもケアカレには救われています」とおっしゃっていました。「実は介護の仕事を続けようか迷ってこの研修に来たけど、もう1度頑張ってみようという気持ちになりました」とアンケートに書いてくださった生徒さんもいました。私たちが考えている以上に、卒業生さんたちにとって学校や先生方は心のよりどころになっていて、実務者研修を通して私たちは、介護の現場で働く2、3年目の人たちの心をケアすることができるのではないかと感じました。それは学校にとってとても大きな意味のある仕事だと私は思います。