人工知能を備えたロボットが介護の世界にやってくる

湘南ケアカレッジの下にあるカフェに、今年からペッパーくんがやって来ました。最初は話しかけてくれるお客さまと全く話がかみ合わず、からみ損のような状態になっていましたが、最近は少しずつおかしな反応はなくなってきています。それでもロボットはロボットでしかない、人間には程遠いなあと思っていたのですが、NHKスペシャル「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」を観て、私のロボットに対する考えは一変しました。ロボットではなく、人工知能の問題なのですね。これから先、人工知能を持ったロボットが私たちの生活を支えてくれる時代がやって来る。もちろん医療・介護の分野でも、いや、人手が不足している医療・介護の分野でこそ、私たちは人工知能を備えたロボットが必要とされるのです。

 

現在の人工知能の凄いところは、簡単に言うと、自ら学習することです。これまでは全て人間がプログラミングしたとおりにしか動作しなかったところが、今や自らデータを収集し、その共通点を把握し、目的に対して最も効率的な手段を講じることができるようになりました。そうして、最も複雑でありコンピューターが人間に勝つのが難しいとされる囲碁というゲームにおいて勝利を収めたのです。そのほか、熟練の医師でも見分けるのが難しいようなガンの兆候を、レントゲン写真を分析することで発見することができるようになりました。自動車の自動運転も近いうちに実現するはずです。人間が運転している車など危なくて仕方ないと思われる時代は必ずやってきます。このようにして、人工知能の発達に伴って、少しずつコンピューターやロボットの方が人間よりも上手くできることが増えてきているのです。

 

ここまでは一般の私たちにも理解できる範囲であり、私も人間がロボットに置き換えられる可能性はある、ロボットの方が人間よりも上手くできる分野もあると考えていました。でも、と思っていました。それでも、やはり他者と親密なコミュニケーションを取ったり、相手を思いやったり、共感したり、傾聴したり、そうした感情や肌のぬくもりを感じさせるような領域については、決して人間がロボットに取って代わられることはないのではないかと信じていました。たとえば、接客業や対人援助職のような仕事は、人間にしかできないはずだと。介護や医療の仕事はその最たるものだと。

 

でも、そうではないみたいですね。人工知能がこれから先、もの凄いスピードで発達することで、ロボットやコンピューターの方が人間よりも親密なコミュニケーションを取ったり、相手を思いやったり、共感したり、傾聴したりすることができるようになります(今でももうそうなっています)。それでも、しょせんロボットはロボットでしかなく、心がない物体にすぎないのではと思われるかもしれませんが、私は番組の中に登場した人工知能の女性を好きになってしまう男の子の話を聞いて、ロボットとも心が通い合うことがあっても不思議ではないと思うようになりました。

 

 

人間にしかできないことなどない。そう言い切ってしまってもいいのではないでしょうか。それは悲観的な意味ではなく、私たち人間はもう一度、原点に戻らなければならない時代に来ているのです。現状に甘んじることなく、もっと上手く、もっとちゃんとやらなければならないということです。今回、人工知能に敗れた囲碁の世界最強棋士(イ・セドル氏)の「アルファ碁(コンピューター)との対局は心から楽しかったです。アルファ碁の手を見て、これまでの知識が正しかったのかどうか、疑問を抱きました。囲碁の世界をもっと極めたいと感じました」というコメントが、人間の取るべき姿勢を代弁してくれているような気がしました。