夢の中へ

「生と死をつなぐケア」の講演に行ってきました。「へろへろ」や「おしっこの放物線」を読み、村瀨孝生さんの生の話を聞きたくなり、そこに谷川俊太郎さんも来られるということで、茗荷谷の駅から歩いては行けないほどの強風が吹く中、万難を排して会場入りしました。ところが、村瀨さんは熊本の大地震の影響で施設を離れることができず、その代わりに現れたのは「宅老所よりあい」の創始者でもある下村恵美子さんでした。緩和ケアを含めて楽しい話をしてくださり、ピンチヒッターであることを忘れさせてしまうほどの、パワフルで素晴らしい内容の講演でした。

 

下村さんの話の中に登場したハツエさんは、最後まで点滴をすることなく、管を身体に通さずに亡くなった方でした。ハツエさんの息子さんはお医者さんであり、他の患者の方々には点滴を施してきたにもかかわらず、自分の母親には点滴をしなかったとのこと(笑)。お医者さんも分かっているのですね。今から20年近く前に、下村さんがある学会で権威の先生方にズバリと聞いたところ、「点滴はお年寄りをプールで溺れさせるようなもの。私たちも現状を変えていかなければならないと思っている」という答えが返ってきたそうです。20年経っても、あまり変わっていないのかもしれません。私は泳ぐのが苦手なので、もし私がそういう状況になったら溺れさせないでくださいね。

 

緩和ケアとはあまり関係のないところで、とても印象に残ったのが「歌を歌うこと」です。認知症の症状が出ていて、たとえば家に帰りたいと言って聞かない方がいたとして、どうしても納得してもらえなくて困ることがあると思います。そんなときに、その人にとっての「歌を歌う」ことで、心が落ち着き、お茶でも飲みましょうということになる。それぐらい「歌を歌う」ことには力があるそうです。実際に講演の中で、下村さんは何曲もアカペラで歌ってくださいました。その中でも、井上陽水さんの「夢の中へ」は涙が出そうになりました。

 

「夢の中へ」 井上陽水 作詞/作曲

探しものは何ですか
見つけにくいものですか
カバンの中もつくえの中も
探したけれど見つからないのに
まだまだ探す気ですか
それより僕と踊りませんか
夢の中へ 夢の中へ
行ってみたいと思いませんか
ウーウー ウーウー
ウーウー さあ

 

認知症の方々と接するときには、自分の世界を持っている彼ら彼女らを尊重しつつ、一緒に○○しませんか?という気持ちであってほしいと下村さんはおっしゃいました。一緒にご飯を食べませんか?一緒にお風呂に入りませんか?などなど。それは理屈ではなく、一緒に踊りませんか?という心が大事ということです。「お年寄りの邪魔をしない」、「先に手を出さない」、そして「一緒に楽しむ」ことが大切だと、最後に付け加えてくださいました。私たちが心に刻むべき言葉だと思います。