「職場選びの際に大切なのは人間関係」という言葉は、半分正しくて、半分間違っています。その仕事や職場を働きがいがあると感じるかどうかは、たしかに周りにいる人々に大きく影響されます。周りにいる人々とは、介護の現場で言うと、利用者さんやその家族、そして共に働くスタッフ(上司を含む)を指します。仕事がどれだけ大変でも、周りにいる人々と共感して、励まし合える関係であれば、(ある程度は)頑張ってやり通すことができるはず。しかし、人間関係はその場の一員として入ってみなければ分からないところもあり、また時の流れと共に移り変わるものでもあります。
人間関係とは、あなたの周りにいる人々との関係のこと。絶対的な人間関係というものがあるわけではなく、全てあなたの主観的なものになります。ある人にとっては良い人間関係でも、あなたにとっては悪いということが往々にしてあり、だからこそ、あそこは人間関係が良い、悪いと言うことは誰にもできないのです。あえて言うならば、「あそこは(私からみて)良い人たちが集まっている職場だけど、あなたにとって合うかどうかは正直分からない」です。
さらに人間関係とは、その名の通り、その職場にいる人間同士の関係によって成り立つ以上、たとえばあなた1人がその職場に入ったことにより微妙に変化します。また、たとえば誰かひとりのスタッフが辞めたことによって、人間関係が大きく変わることもあり得ます。スタッフや利用者さんの小さな気持ちの変化によっても、職場の人間関係は少しずつ変わってしまうのです。つまり、人間関係とは、日々移り変わるものであり、常に固定されているものではないということです。
私もこれまでたくさんの職場を経験してきて、様々な人間関係を味わってきました。最も印象に残っているのは、かつて勤めていた介護のスクールにて、上司に無理難題を押し付けられながら、月500時間働き詰めていた頃のことです。誰もが互いを思いやる余裕のないギスギスした職場で(こういう会社が福祉を語っているのだから不思議ですよね笑)、私の心の支えになっていたのは先生方でした。自分の母親ぐらいの年代の先生方に、仕事の面でも精神的にも助けられ、2年間の荒行を終えて、なんとか生き延びることができたのです。この経験から私が学んだのは、仕事やお金や成功など大した問題ではなく、何よりも人が大切だということです。
人間関係は絶えず変化するものと言っておきながら、矛盾するかもしれませんが、もし人間関係があなたにとって良くないと感じたら、去るべきだと私は思います。特に、介護の現場に対しては強くそう感じます。利用者さんたちを残して去るのは後ろ髪を引かれることと思いますが、自分の心が病んでしまう前に、その場から逃げるべきです。大きな視点で見れば、良いスタッフが残らず去ってゆく施設や事業所は、これから先、利用者は増えてもサービスを提供できなくなるはず。そうすることで自浄作用が働き、経営者たちは考え方を改めざるを得ず、人を大切にする職場しか生き残っていけなくなります。誰もが働く人たちの心に気を配る職場になれば、いつの日か人間関係という言葉さえ必要なくなるかもしれませんね。