卒業生のひとりから、「介護や福祉の仕事は、前に比べると給料は上がっていますが、まだ子どもたちが目指したい職種には程遠い状況です。どのような改善策がありますかね?」というご質問をいただきました。確かに介護職の給与や社会的地位については一般的にも言われており、これからますますの高齢社会において、見過ごすことはできない問題になってきていますね。現場ではない学校としての公平な立場から、この問題について少し考えてみたいと思います。
まずは現状として、介護職の給与は低いのかというそもそもの問題について。以前に紹介した「東洋経済」の特集「誤解だらけの介護職」にも記されていたように、他の産業と賃金上昇カーブを比較してみると確かに低く見えますが、そこに勤続年数(経験年数)を含めて再度賃金上昇カーブを作り直してみると、実は他の産業とほとんど変わらない。もう少し正確に言うと、男性は他産業と比べてみると年収にして100万円ほど少なく、女性は他産業に比べるとやや多いという結果になっています。
ここから分かることは、日本の社会や会社はまだほとんどが年功序列になっていて、年齢が上がると(勤続年数が増えると)給与が上がる仕組みになっています。この仕組み自体も問題がありますので、この先、時間を掛けて少しずつ崩壊していくはずですが、現状としてはたしかに存在します。
それに比べて、介護の業界は、比較的歴史が浅く、完全な年功序列にはなっていない(年齢が高い=経験が豊富とはなっていない)ため、他産業から転職してきた年齢は高くても経験が浅い人たちが多いということです。介護職の給与は高いとは言えませんが、介護職の給与は低いという誤解は、日本人の中にある年功序列の意識が生んでいるという面もあるのではないでしょうか。
それから、給与を考えるときには、年収や月収という数字だけではなく、その仕事の内容や時間という面も見逃してはいけません。どういうことかというと、いわゆる残業と呼ばれるものがどのぐらいあるのか、どれぐらいの時間を拘束されるのか、どういった仕事の質を要求されるのか。それぞれの仕事によって違いますし、人によって異なるので比べようがないからかもしれませんが、給与が高い低いという一般論の中には、この問題が抜け落ちている気がします。たとえば、年収が350万円といっても、1日、1週間、1ヶ月、1年にどれぐらい働いての給与なのかということです。
これは私の経験も踏まえていますが、世の中のブラックと言われている企業で働いている方は恐ろしいぐらいの労働時間を働いています。私がとある企業で働いていたときは、朝の7時半に出勤して、お昼ご飯をまともに食べることも珍しく、夜の24時40分の終電に間に合うまで仕事をしていました。1日17時間労働、しかも土日もほとんど休むことができません。睡眠不足が肉体を蝕み、何よりもひと時も気が休まる暇がなく、たえず上司やお客様からのプレッシャーの中でまさに戦っている感じでした。こういった生活が2年ほど続き、もしあと1年続いていたら病気になっていたかもしれません。
これで年収にして400万円前後、(みなし残業として給与に含まれていますので)残業代も出ませんでした。他の産業では、私たちの目に見えないところで、こうした月200時間を超えるような度を超えたサービス残業が横行しています。もちろん介護職にもサービス残業はありますが、こうした常軌を逸した働き方をしている他産業のサラリーマンと単純に年収を比較してはいけないと思います。それが介護職の給与の低さの免罪符になるということではなく、そういった恐ろしい世界があり、単純に他業種と給与を比べるのは難しいということです。
(中篇へ続く→)