私たちは仕事をしていると、ともすると、「○○をすることが仕事」になってしまうことがあります。たとえば、入浴は1人○分以内と時間制限が決まっていたりしますので、そればかりが頭にあって、利用者の気持ちや表情を見る余裕がなくなってしまいます。それに輪をかけるようにして、入浴したくない(入浴拒否)の利用者の方がいたときなど、事態はますます悪化します。なんとか入浴させようとして、半ば無理やりに浴場まで連れていきますが、抵抗して大暴れなんてことも。楽しく入浴してもらいたいと最初は思っていたのに、気がつくと入浴してもらうことが仕事になっているのです。
入浴することには身体的な意義や心理的な意義、社会的な意義があり、とても大切なことです。たしかにそうなのですが、拒否する利用者を無理やりに縛りつけて入浴させることはありません。以前に紹介した「ばあちゃん、介護施設を間違えたら、もっとボケるで!」にも描写があったように、嫌がる高齢者にホースでシャワーを浴びせる光景は、魚市場か!と突っ込まれても仕方ありません。私たちが入浴をさせることが仕事になってしまうと、こうなってしまいます。なぜ、本来は楽しくて気持ち良いはずのお風呂に入りたがらないのか、という視点が欠けてしまうからです。
ここでも利用者の心をどう捉えるかが大切になってきます。入浴したくないと思うのは、どこかに何か不安を抱えているのではないでしょうか。たとえば、浴場の床で滑りそうになったことがある、浴槽の中で足が浮いて怖い思いをしたことがある等々、高齢の方はちょっとしたことで不安を感じてしまうことがあります。また、お湯を出そうとしたら、いきなりお水が出てきて冷たかったなど、嫌な思いをしたことがきっかけとなることもあります。ある男性の利用者で、家ではずっと一番風呂に入っていたので、前に誰か入っている形跡があると入りたがらないという方もいます。入浴したくない理由が分かりさえすれば、それぞれに対処して、入浴してもらうことも可能になるのです。
デイサービスに勤めながら湘南ケアカレッジに通ってくれた生徒さんが、「もっとゆっくりお風呂に入れてあげたいのにといつも思う」と言っていました。その心からの言葉を聞き、自分がその方だったらという視点が素晴らしいなあと思うと同時に、その気持ちをいつまでも忘れずにいてほしいと思いました。自分が利用者だったらという想像が難しければ、自分の家族(両親や祖父母)が利用者だったら、どのようにしてあげたいかと考えるべきです。それは介護の仕事だけではなく、どの仕事でも同じ。たとえば、営業の仕事でも、教育の仕事でも、自分の大切な友人や家族にそれを売りたいか、その教育を受けさせたいか、と自分に問うということです。せっかくやるなら、本当に相手が望む仕事をしたいものですね。
湘南ケアカレッジは、介護職員初任者研修を行うことが仕事ではなく、資格を取ってもらうのが仕事でもありません。そうではなく、介護の仕事のやりがいや素晴らしさを知ってもらい、実際に仕事をしたときの支えになるような知識や技術を学んでもらいたい。もっと言うと、私たちは介護職員初任者研修を通して、人に対する思いやりや愛情、笑顔や感動を伝えていきたい。自分の大切な人たちにも受けてほしいと心から思えるような最高の介護・福祉教育を、これからも届けていきたいと思うのです。