NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」で取り上げられた和田行男さんの姿を見て、認知症になった利用者のことをずっと考えてきた人なのだと感じ、その著書が発売されたというので早速読んでみました。「だいじょうぶ認知症」というタイトルは、認知症になったことは不本意でも、絶望視するのは早すぎますよというメッセージであり、どんなにあがいても回避できない、元に戻せないのなら、その上で覚悟を決めて、前向きに生きていく道を探るしか方法はないという建設的な提案でもあります。本の内容も素晴らしく、著者が27年間かけて学んできて、今も学び続けている認知症について、分かりやすい例を用いつつ、誰もが認知症について理解を深められるようにまとまっています。
まずは私たちが生活の中で認知症に出会う瞬間についてから、話は始まります。ここで待っているといったのに待っていなかったお母さん、ルールが守れなくなり総スカンをくらったおじいちゃん。その他、同じものをいくつも買う、同じ料理ばかり作る、使っていないのに醤油が減るためヘルパーが盗んだと叫ぶ、財布の中が小銭だらけになる、誰もいないのに人が見ていると怖がる、真夏に冬物コートを着て歩くなど、実際に多く見られた事例(あるあると頷かれた方も多いのではないでしょうか)が紹介されます。認知症との出会いは、「原因疾患よりも状態のほうが先」で、その状態は多くの場合、「生活の中で起こっている」と、認知症に気づくこと(早期発見)の大切さを説きます。
そして、そもそも認知症とは?と自問しつつ、95%間違っていないという前提で、認知症をこう定義します。
認知症とは、
●原因疾患によって起こる
●そのことによって脳が器質的な変化をきたす
●そのことで知的な能力が衰退する
●そのことで生活に支障をきたす
認知症につながる疾患の数は、およそ70~100あると言われており、一番知られているのはアルツハイマー型認知症であり、他にもレビー小体病やピック病、脳血管性疾患(脳梗塞や脳出血など)が代表的です。それらの疾患により、脳の一部の性質が変わり、たとえば記憶などの知的な能力が衰え、そのことが生活に支障をきたすようになることが認知症ということです。つまり、認知症はそれそのものが病気ではなく、病によって引き起こされる状態だということです。ここは太字にしておきたいところですね。
なぜ認知症が病からきた状態という受け止め方が大切かというと、認知症という状態になって、周りの人には承服しがたい、理解しがたい言動や、本人の好き放題にしているような行動が現われたとしても、それは本人にとって不本意なことであり、本人が一番つらいのだと捉えることがとても重要だから、と著者は説くのです。そういう受け止め方ができてこそ、私たちは手を差し伸べることができるのです。
第3章では、認知症とどうやって折り合いをつけていくかが語られ、最後の章では、この先の高齢社会を見据えて私たちがどんな生き方を目指すのかという方向性が示されます。それぞれが教科書的ではなく、実際の体験や実例をもとに語られており、身近に認知症の方がいる人ほど腑に落ちやすいはずです。徘徊する傾向のある認知症の方をなるべく早く見つけられるように、名札には旧姓も書いておくといいという提案には、個人的にはなるほどと思わせられました。現在進行形で介護にたずさわっている方にとっても、これから介護の世界に入られる方にとっても、それぞれに大きな学びがある一冊です。