「介護はこころが9割、からだが1割」と小野寺先生は言いきります。多少の割合の差こそあれ、介護の現場に真剣にたずさわっている方なら、そう考えるのではないでしょうか。一般的な人たち、またはこれから介護の世界に飛び込もうとしている方々にとっては、介護とはからだのことだと思われているかもしれません。たとえば、ベッドから車椅子への移乗であったり、食事の介助であったり。からだを使って行なう行為が介護であると。実はそうではなく、介護において最も大切なことは、こころのケアなのです。
高齢の方のこころを占めているのは不安です。たとえば私たちが旅行に行くとして、家を出て、その道程でガスの元栓を閉め忘れたことに気づいたとき、私たちは不安になります。閉めたような閉めていないような、記憶を辿ってみても思い出せない。もし閉めていなくて、火が出て火事になったらどうしよう。いろいろな不安が押し寄せてくるはずです。そんな言い表しようのない不安。私たちはその気になれば、家まで戻って、ガスの元栓を確認することができますが、高齢の方はできません。このような不安が生きている間ずっと続くのです。
やる気がなくなってしまうという特徴もあります。何を対象としてかはそれぞれですが、全般的にはあらゆることに対してやる気が失われていきます。そうなると何が起こるか。私たちが身体的な介助をしなければならなくなります。たとえば、自分で食事を食べる気がなくなってしまうと、私たちが食事介助をしなければならなくなります。自分でベッドから起き上がってトイレに行く気がなくなってしまうと、オムツを着け、介護者が排泄の介助をしなければならなくなります。あらゆることにつながっていくのですが、利用者のやる気が介護量に大きく影響してしまうのです。
介護を大きく左右するのが利用者のこころである以上、私たち介護者が心がけなければならないのは、どのようにして高齢の方の不安を取り除いたり、やる気を高めていくかを考えること。どれだけ上手く効率的に身体介護をするかよりも、こころのケアが最優先です。こころを知り、ケアをすることができれば、利用者はできる限り自立した生活を送ることができ、極端なことを言うと、介護者がからだを使って介護することはほとんどなくなるのです。介護が大変だと感じている方は、まずは利用者のこころに目を向けてくると良いかもしれませんね。
「介護職員初任者研修」の中で、高齢者や障害のある方のこころについて知り、どのようにして不安を解消し、やる気を起こさせていくのか、ぜひ一緒に考えていきましょう。