車椅子の介助のための段差

「移動・移乗に関連したこころとからだのしくみと自立に向けた介護」という授業の中では、車椅子を使った体験型の授業が行なわれます。車椅子の基本的な使い方や操作方法を知り、実際に車椅子を押したり止めたりと運転してもらうだけではなく、自らが利用者になって車椅子に座り、乗る側の感覚も体験してもらいます。平地から坂道、そして段差などあらゆる状況を想定するのですが、段差がある場所における車椅子の介助方法を練習するとき、この段差が登場することになります。

 

段差は高すぎてはいけませんし、低すぎてもいけません。車椅子で登れる程度の段差でなければ意味がありませんし、逆に簡単に登れてしまっても練習にならないからです。これまでの経験上、最も段差に適した高さは10~15cm前後。これぐらいの高さですと、力任せで登るのは難しく、ボディメカニクスを使った正しい介助方法を用いなければなりません。また、利用者として車椅子に乗り、前から降りる体験をしてもらうときに恐怖感がありますので、自分が介助するときには、前から降りるか後ろから降りるかに気を遣えるようになります。

 

段差の上面の大きさも重要です。これぐらいの段差は、前向きで登って、後ろ向きで降りるのが基本的な介助方法です。その際、この段差の上面で一回転して、車椅子の向きを変える必要が出てきます。そのためには、利用者を車椅子に乗せた状態で介助者も一緒にクルっと180度回転して向きを変えられるだけのスペースがなければいけません。もちろん広ければ広いほど良いのですが、あまりに広すぎると今度は段差自体が大きくなりすぎて持ち運びにくくなってしまいます。この段差は移動・移乗の授業以外では使いませんので、移動性と収納性を兼ね備えた適度な大きさがあるのです。

 

驚かれるかもしれませんが、この段差は自家製です。そう、私が日曜大工でつくりました。なぜかというと、こんな都合の良い段差は売っていないから(笑)。材料は桜木町にある某ホームセンターに買い付けに行きます。丈夫で釘が打ち付けやすい木材をピックアップし、あらかじめ決めていた寸法にカットしてもらいます。昔はカットしてもらった木材をそのまま電車に乗せて持ち帰ったりしていましたが、今はもう年なので…教室まで配送してもらいます。

 

木材が教室に到着するや、釘を打ち込んで各パーツをつなげていきます。釘は全部で30箇所ぐらいに打ちます。段差には結構な荷重かが掛かりますので、念入りに頑丈に。ここで気をつけなければならないのは、釘を打つ音です。かなりの大きな音が出ますので、周りに迷惑を掛けないよう、たとえば深夜や日曜日など、上下フロアに誰もいない時間帯に行なうのがコツです。静かな場所に釘を打つカンカンと響き渡る音、一度やると病みつきになりますよ(笑)。もうかれこれ、いくつもの段差をつくってきましたので、段差つくりはお任せあれ!