今年4月に始まった湘南ケアカレッジの「介護職員初任者研修」からは、おかげさまでたくさんの卒業生が誕生し、その中にはフィリピン出身の生徒さんもいました。介護という新しい世界だけではなく、母国語ではない日本語を使っての研修に飛び込んできてくれたのですから、彼女の勇気には敬服します。学びたいという気持ちが彼女からひしひしと伝わってきましたので、湘南ケアカレッジとしても全力でサポートさせてもらいました。もちろん、日本人の生徒さんたちも全力でサポートしていますが、それ以上に、何としてでも最後までしっかり研修を受けてもらい、無事に修了してもらいたいと思ったのです。
以前にも書きましたが、今から9年前の2004年に、私はフィリピン人を対象としたホームヘルパー2級講座(現・介護職員初任者研修)を手がけたことがあります。授業を進める中で、やはり大変だったのは言葉の問題です。話し言葉によるコミュニケーションにはほとんど不自由しない方が多かったのですが、一番難しいのは読み書きでした。特に漢字です。昔、タイ人にタイ語を少し教えてもらったことがありますが、タイの文字は私には象形文字のように見えました。日本の漢字だって、おそらくフィリピンの方にはそう見えるのでしょう。
さらに困ったことに、介護には専門用語が少なからず存在します。たとえば、認知症とか褥瘡(じょくそう)とか。褥瘡なんて、日本人でも読み方が分からないですよね。
にもかかわらず、印象的だったのは、フィリピン人の彼女たちがとにかく明るいことでした。異国にやってきて慣れない言葉を使っての授業であったにもかかわらず、笑顔や笑い声の絶えない1ヶ月間でした。教えている先生たちも、「楽しい!」と言っていたぐらいです。
よくコミュニケーションが好きで、開放的な性格をもつフィリピン人の女性たちは介護の仕事に向いていると言われますが、それは本当でした。たとえばデイサービスやグループホームなどの施設に、彼女たちがひとりでも入ったら、その場の雰囲気はより一層明るくなるだろうなと思いました。そして何よりも、彼女たちはとても勉強熱心でした。
しかし、当時のホームヘルパー2級講座とは違い、「介護職員初任者研修」には修了試験があります。そこまではサポートできたとしても、修了試験だけは横について答えを教えるわけにはいきません。そこで今回、どうやったら彼女に言葉の壁を少しでも感じさせないように試験を受けてもらうかを考えたとき、問題文の漢字ひとつ一つにルビを振るという工夫をしてみました(それぐらいしかできなかったということでもあります)。
その結果、さすがに一発で合格とはならず再試験という形ではありましたが、見事に合格してくれたのです!合格が決まったときの彼女の涙ととびきりの笑顔は忘れられません。彼女のためにつくったルビつきの修了試験のコピーは、次に来る外国の生徒さんのために私の机の引き出しの中に入っています。